自分の生き方を守る――薬師寺・大谷徹奘さん法話

2021年09月06日 | 誰でも

 今回は「守拙(しゅせつ)」という言葉を紹介します。

 もう15年以上前になるでしょうか。奈良の街中へ買い物に出かけました。とある古美術店の前を通るとショーウィンドーに「守拙」と書かれたお軸が飾られていました。どなたの筆跡なのか知りたくなり近づいてみると、なんと私の師匠・高田好胤和上をご指導された橋本凝胤(ぎょういん)和上の染筆でした。

 お店に入って話を聞くと私でも手が届くことがわかり、風呂敷に包んでもらったお軸を抱えて寺に戻ったことを、昨日のことのように覚えています。

 当時の薬師寺住職は、やはり橋本和上の指導を受けられた安田暎胤(えいいん)長老。お軸をお見せすると、この言葉を橋本和上が好まれていたことを教えて下さいました。

 それからしばらくの間、床の間に掛け、橋本和上から直接教えを受ける、そんな気持ちで「守拙」の語と向き合いました。

 正直に言えば、「守拙」という言葉も、意味も知りませんでした。偉いお坊さんが大切にしていたのだから経典に出てくるものだと信じ切って、仏教語辞典で調べたのですが、見当たりません。そこで漢和辞典をひもといて見ると陶淵明の「帰園田居」の中に出てくる言葉だとわかりました。漢和辞典では「守拙」を次のように解説しています。

貧しくとも自分の生き方を守り、時世に適応できなくても落ち着いている。りこうに立ちまわらない。(原文のまま)

 この意味を知り得た時、このお軸との出会いは決して偶然ではなく、橋本和上の対機説法であり、すぐに過信し、利口に振る舞ってしまう私への、戒めだったのだと受け止めました。

 後日、文豪・夏目漱石氏もこの言葉を好んで使い、自らの漢詩に「才子群中只守拙」と記していることを知り、板に書写して以来、座右の銘としています。

 今、本当に生き方が難しくなっています。そんな時だからこそ、一人ひとりが「守拙」という生き方を身につけ、謙虚に生きることが大切だと思います。

合掌

(薬師寺執事長 大谷徹奘)

写真=「『守拙』という生き方を身につけ、謙虚に生きることが大切」と話す大谷執事長。橋本凝胤和上筆「守拙」と共に(奈良市で)

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