自分を 互いを 尊ぶ心――薬師寺・大谷徹奘(てつじょう)さん法話

 薬師寺の本坊(お写経道場)には、修行生活の中で食事や会合の場として使われる「五観の間」という部屋があります。

 部屋の壁には、私の師匠・高田好胤和上をご指導なされた、昭和の名僧として名高い橋本凝胤(ぎょういん)和上(1897~1978年)の御染筆による大きな額が二面掛けられています。

 一面は「以和為貴」(和を以〈もっ〉て貴しと為〈な〉す)。もう一面が写真の額です。

 橋本和上は能筆家としても有名でした。あまりにも達筆なので書道の修練が足りない私には読めません。そこで先輩僧侶に尋ねると、「自尊互尊」(じそんごそん)であると教えていただきました。出典を探したのですが見当たらず、橋本和上が考えられた言葉として受け止めています。

 正直に言えば今までこの「自尊互尊」の額を意識して見たことはありませんでした。しかし、コロナ禍となり、今更に自分の身の回りを見直した時、この額が毎朝時を過ごす場に掛けられている重要性を深く感じるようになりました。

 人生の一大事は人間関係にあると私は思っています。どのように人と付き合えば良いのか迷うことが多々あります。特に平時では問題のないことも、今回のような長期的な難事に直面した時はなおさらです。そのような今だからこそ「自らを尊び、互いを尊ぶ」という姿勢を貫けと、橋本和上がお諭しになっているように思えるのです。

 人は追い込まれるほどに「利己心」を強くしてしまうものではないでしょうか。しかし、誰かが身勝手に利己心を振り回せば、決して「和」は育ちません。追い込まれるほどに大切なのが「尊ぶ」という心の姿勢だと思います。

 まだまだ先が見えないコロナ禍の中ですが、決して自暴自棄にならず、「自尊」(自らを気づかう)と、「互尊」(お互いを気づかう)の精神を忘れず、日々を大切に過ごさなくてはならないと、毎朝この額を見つめながら自分自身を戒めています。

合掌

(薬師寺執事長 大谷徹奘)

写真=橋本凝胤和上筆「自尊互尊」(じそんごそん)薬師寺蔵

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